微熱
2026/02/21
植木鉢抱えて歩く ずんずんと知らない街に日は落ちていく
互いに素だから無言の食卓に現れた分数 どうしようもない
心臓が錆びているのか確かめた触覚だけの舌を使って
絶えず火を消しつづけている祖父の背に私が欠けたままの家系図
本を読むことは減ったと知ってからもう木洩れ日は温かくない
逆立ちの花火師のような言い訳に少しは仕方がないと思った
屋上で冷えた手錠を掛けられるしんしんとして星を見ながら
果てしなく高い銀杏(いちょう)の樹が崩れなにも憶えていられなくなる
誰からも疎まれた日の夕焼けは神経質に誠実だった
自分にもあった幼い日のことが遠くの窓のように気になる
荒れ果てた庭で途方に暮れたまま 千秋楽が顔を覆って
あいさつがこだましている土手沿いを家々の背が低くなるまで
うっすらとした腰つきの標識が雨が近づくことを伝える
最後には頷いていた真昼間のスワンボートの顔と言われて
いずれかの部屋に一頭バイソンが星の頭痛に苦しんでいる
燃える実の煙はどこか楽しげでそうやって何人も消していった
中に誰かいるのだろうかスピネット真夏の海に硬く閉ざされ
覚えのないエレベーターが降りてきて人違いですか、と植物は言う
電球を取りかえてから顔がよく泣いて笑って柔らかくなる
簡単に言ってしまえば蓋だけど同時に針であるような人
すすり泣く声が聴こえて人類に桜まるごと落っこちてくる
虹が出て大幅にずれることだろう今日の白目と黒目の数は
引きとめた裾がカーテンに代わっても髪が乱れても気づかないふり
手のひらにまた手のひらが重なって蜜蜂たちが寄りはじめている
一度では言えないことを直すたび塩に小瓶が満たされていく
剥くことにとっくに飽きてかじりつく 掴む力は優しいままで
話すのをやめて身体を委ねたら騒々しい夏の泉に着く